
「相続対策、そろそろ考えないと」と思いながら、気づけばもう年末――。
そんな方も多いのではないでしょうか。
ですが、相続対策の中には「年内に済ませるかどうか」で結果が変わるものもあります。
たとえば贈与税は、1月1日から12月31日までの1年単位で計算されるため、年が変わると使える枠や扱いも変わります。
なかでも2026年は、税制改正の影響で、年が明けると使えなくなったり条件が不利になったりする制度が重なる、少し特別な年です。
特に影響が大きいのが、2027年1月から始まる貸付用不動産の評価の見直し(いわゆる5年ルール)と、2026年12月31日に期限を迎える住宅取得等資金の贈与の非課税措置です。
本記事では、年内に確認しておきたい相続対策・贈与のポイントを、期限が迫っているものから順に整理します。
2026年末で区切りを迎える制度
貸付用不動産の評価の見直し(5年ルール)

令和8年度税制改正により、2027年1月1日以後の相続・贈与から、貸付用不動産の評価方法が見直されます。
相続や贈与の前5年以内に購入・新築した貸付用不動産は、これまでの路線価や固定資産税評価額をもとにした評価ではなく、原則として時価で評価されることになります。
取得価額をもとに計算する場合でも、評価額は購入価格のおおむね8割程度となり、これまでのような大きな評価減は見込めなくなります。
<9月に公表された通達案のポイント>
2026年9月には、国税庁からこの見直しの具体的な中身を示す通達案が公表されました。
押さえておきたいポイントは次の2つです。
●区分マンションだけでなく、一棟アパートや賃貸ビルなど、人に貸している建物とその土地が広く対象になる
●「5年以内」かどうかは、購入や新築をした時点から数える
通達は年内に正式に決まる見込みです。
<2026年中の贈与なら従来の評価が使える>
この見直しは2027年1月1日以後の相続・贈与から適用されるため、2026年12月31日までの贈与には従来の評価方法が使えます。
贈与した財産は、相続時に加算される場合でも贈与した時点の評価額で計算されるため、年内に贈与すれば低い評価のまま子などへ移せます。
次のような方は、年内の贈与を検討してみても良いでしょう。
●相続対策として、ここ数年のうちに賃貸マンションやアパートを購入・新築した方
●所有者が高齢で、今後5年ほどのうちに相続が起こる可能性も考えておきたい方
●いずれ子に引き継ぐ予定の物件で、家賃収入も早めに子に移しておきたい方
反対に、5年以上前から持っている物件や、自宅として使っている不動産は今回の見直しの対象外のため、急いで贈与する必要はありません。
<年内贈与のデメリットにも注意>
ただし、年内の贈与が必ず有利になるとは限りません。
不動産の贈与では、贈与税のほかに、不動産取得税や登録免許税(固定資産税評価額の2%)がかかります。
相続であれば非課税の不動産取得税や、0.4%で済む登録免許税と比べると、負担は重くなります。
また、贈与した土地には、相続で取得した場合に使える小規模宅地等の特例が使えません。
ローンが残っている物件をローンごと贈与すると「負担付贈与」となり、時価で評価されるため、評価減の効果がなくなります。
評価額の差だけでなく、これらのコストを含めた総額で比較したうえで判断することが大切です。
5年ルールの詳しい内容は、こちらの記事で解説しています。
(「賃貸不動産節税の規制」5年ルールや不動産小口化商品の扱いについて)
不動産小口化商品は取得時期を問わず見直し

複数の投資家で不動産を共同所有する「不動産小口化商品」も、2027年1月以後は評価方法が見直されます。
こちらは5年以内かどうかではなく、取得時期を問わず対象になります。
通達案では、出資した元本の90%(5年以内に始まった事業は95%)などで評価する方法が示されています。
これまで購入価格の1割程度で評価できたケースもあったため、影響は大きくなります。
保有している方は、年内に贈与するかどうかを含めて、早めに検討しておく必要があります。
住宅取得等資金の贈与の非課税措置
子や孫がマイホームを取得するための資金を、父母や祖父母から贈与する場合に使える非課税措置も、現時点では2026年12月31日が期限です。
非課税になる金額は、受贈者1人あたり、省エネ性能などの要件を満たす住宅で1,000万円、それ以外の住宅で500万円です。
主な要件は次のとおりです。
●贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上であること
●贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下であること(床面積が40㎡以上50㎡未満の場合は1,000万円以下)
●取得する住宅の床面積が40㎡以上240㎡以下で、その2分の1以上が受贈者の居住用であること
●原則として贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与された資金の全額を住宅の取得等にあて、居住すること
この非課税措置は、暦年贈与の基礎控除110万円と併用できます。
ただし、住宅の引き渡しや入居の時期によっては要件を満たせないこともあるため、購入スケジュールとあわせて確認しておきましょう。
なお、非課税となって贈与税がゼロになる場合でも、翌年2月1日から3月15日までに贈与税の申告をしなければ、この特例は受けられません。
<延長は12月の税制改正大綱しだい>
この措置はこれまでも延長が繰り返されてきましたが、2027年以降も続くかどうかは、12月に公表される令和9年度税制改正大綱を待たなければわかりません。
住宅の購入を予定していて、親や祖父母から資金援助を受ける見込みがある場合は、年内に贈与を済ませておくと確実です。
毎年リセットされる贈与の枠
暦年贈与の110万円は繰り越せない

暦年贈与では、1年間に受け取った贈与の合計が110万円以下であれば、贈与税がかかりません。
この110万円の枠は受け取る人ごとに毎年使えますが、使わなかった分を翌年に繰り越すことはできません。
今年まだ贈与をしていない場合、年内に実行しなければ、2026年分の枠はそのまま消えてしまいます。
たとえば、子2人と孫2人の計4人に毎年110万円ずつ贈与すれば、1年で440万円を贈与税なしで移せます。
1年先送りするごとに、この440万円分の移転の機会を失うことになります。
<7年加算が本格化する前に知っておきたいこと>
暦年贈与には、相続や遺贈で財産を受け取った人が相続発生前の一定期間内に受けた贈与は、相続財産に加算して相続税を計算するというルールがあります。
この加算の期間は、2024年1月以降の贈与から、従来の3年から7年へと段階的に延びています。
2027年以降に発生する相続から加算の期間が3年を超えはじめ、2031年1月以降の相続では、まるまる7年分が加算の対象になります。
なお、延長された4年分の贈与については、合計100万円までは加算されません。
加算の期間が長くなるほど、暦年贈与による相続税の軽減効果は出にくくなります。
効果を得るには、できるだけ早く、長い期間をかけて続けることが重要です。
また、孫など相続で財産を受け取らない人への贈与は、原則としてこの加算の対象になりません。
相続時精算課税の110万円も年単位
相続時精算課税にも、2024年1月から年110万円の基礎控除が設けられています。
この基礎控除の範囲内の贈与は、贈与税がかからないうえ、暦年贈与と異なり、相続が起きても相続財産に加算されません。
こちらも年単位の枠のため、使い残しは翌年に繰り越せません。
すでに相続時精算課税を選んでいる方は、毎年110万円以内の贈与を続けることで、加算されない形で財産を移すことができます。
年内に贈与するときの手続き
年末の贈与では、贈与の日付が12月31日までに収まっていることが重要です。
現金の贈与であれば、贈与契約書を作成し、受贈者名義の口座に振り込むのが基本です。
金融機関は12月31日が休業日のため、振込は12月30日までに済ませておく必要があります。
また、毎年同じ時期に同じ金額を贈与し続けると、最初からまとめて贈与する約束だったとみなされるおそれがあります。
贈与のたびに契約書を作り、受け取った側が自分で口座を管理するなど、贈与の実態を残しておきましょう。
不動産の所有者が年内に確認したいこと
固定資産税は1月1日時点の状況で決まる

固定資産税は、毎年1月1日時点の所有者に、その時点の土地や建物の状況にもとづいて課税されます。
このため、年内に行うか年明けに行うかで、翌年の固定資産税が変わることがあります。
特に注意したいのが、相続した空き家の取り壊しです。
住宅が建っている土地は、「住宅用地の特例」によって固定資産税が最大6分の1に軽減されています。
年内に建物を取り壊すと、翌年1月1日時点では更地となり、この特例が外れて土地の固定資産税が大きく上がることがあります。
売却を予定している場合などは、取り壊しの時期を年明けにずらせないか検討する価値があります。
一方で、管理が行き届かず「管理不全空家」や「特定空家」として勧告を受けると、取り壊さなくても住宅用地の特例が外れます。
空き家を放置したまま年を越すことにもリスクがある点は、あわせて押さえておきましょう。
不動産の贈与は登記まで年内に
5年ルールへの対応などで、年内に不動産を贈与する場合は、贈与契約書を交わすだけでなく、所有権移転の登記まで年内に済ませておくと安心です。
贈与の日がいつかをめぐって、登記の日付で判断されることがあるためです。
法務局は12月29日から1月3日までの年末年始は閉庁となるため、登記の申請は12月28日までに行う必要があります。
登記には必要書類の準備や司法書士の手配も必要で、年末は依頼が集中します。
不動産の贈与を考えている場合は、11月中には手続きを始めておくのが理想です。
相続した空き家を売る予定がある場合
亡くなった親が住んでいた家を相続して売却する場合、一定の要件を満たせば、売却益から最大3,000万円を差し引ける特例があります。
ただし、この特例を使うには、相続の開始から3年を経過する日が属する年の12月31日までに売却しなければなりません。
たとえば2023年中に相続した家であれば、2026年12月31日が売却の期限です。
年をまたぐと特例が使えなくなり、売却益によっては税負担が数百万円単位で変わることもあります。
このほか、売却価格が1億円以下であること、1981年5月31日以前に建てられた家であることなどの要件があり、相続人が3人以上いる場合は、控除額が1人あたり2,000万円になります。
2023年に相続した空き家の売却を検討している方は、年内に売買契約まで進められそうかを、早めに確認しておきましょう。
年末に一度見直しておきたいこと
財産の棚卸し

贈与の判断をするには、まず自分がどんな財産をどれだけ持っているかを把握しておく必要があります。
預貯金や有価証券、不動産、生命保険などを一覧にし、おおまかな相続税の見込み額を確認しておくと、どの対策が必要かが見えやすくなります。
不動産については、2026年2月に始まった「所有不動産記録証明制度」を使うと、法務局で自分の名義の不動産を全国まとめて一覧で確認できます。
親の財産を把握しておきたい場合にも、本人の協力を得て活用できます。
遺言や保険の受取人
すでに遺言を作成している場合は、その後の財産の増減や家族の状況の変化に内容が合っているかも確認しておきましょう。
遺言で指定した不動産をすでに売却していたり、贈与で財産構成が変わったりしていると、遺言の内容と実態にずれが生じます。
生命保険の受取人が、離婚や死亡などで実情に合わなくなっていないかも、あわせて見直しておくと安心です。
2027年3月末までに判断したいもの
結婚・子育て資金の一括贈与
子や孫に結婚・子育て資金をまとめて贈与した場合に、1,000万円(結婚費用は300万円)まで非課税になる措置は、2027年3月31日が期限です。
ただ、この制度については、こども家庭庁が令和9年度税制改正の要望で、期限をもって廃止するよう求めています。
教育資金の一括贈与が2026年3月で延長されずに終了したのと同様に、延長されない可能性があります。
利用を検討している場合は、12月の税制改正大綱の内容を確認しつつ、年度末までに判断する必要があります。
なお、使い残した残額には贈与税がかかるなど、教育資金の一括贈与と似た注意点もあります。
本当にまとめて渡す必要があるのか、必要な都度の援助で足りないかも含めて検討しましょう。
名義変更していない相続不動産の登記
2024年4月から、相続で不動産を取得した場合の相続登記が義務化されました。
この義務は、制度が始まる前に起きた相続にも適用され、2024年4月より前に相続した不動産で、まだ名義変更をしていないものは、2027年3月31日までに登記をする必要があります。
正当な理由なく期限を過ぎると、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
遺産分割がまとまらず期限に間に合わない場合は、自分が相続人であることを法務局に申し出る「相続人申告登記」を行えば、義務を果たしたことになります。
祖父母や親の名義のまま放置している土地や実家がないか、年末年始のうちに確認しておくと安心です。
年明けの手続きスケジュール
年内に贈与を行った場合は、年明けの手続きも忘れないようにしましょう。
●贈与税の申告・納付:2027年2月1日から3月15日まで
●住宅取得等資金の非課税措置を使う場合:非課税で税額がゼロでも申告が必要
●相続時精算課税を新たに選ぶ場合:同じ期間内に選択届出書の提出が必要(年110万円以下の贈与のみの場合は、届出書の提出のみで足ります)
暦年贈与で110万円以下に収まっている場合は、申告は不要です。
不動産を贈与した場合は、贈与税のほかに、後日、都道府県から不動産取得税の納税通知が届く点も覚えておきましょう。
まとめ

2026年は、貸付用不動産の5年ルールや住宅取得等資金の非課税措置など、年内かどうかで扱いが変わる制度がいくつも重なる年です。
ただし、年内の贈与には、不動産取得税や登録免許税、小規模宅地等の特例が使えなくなるといったコストもあり、急いで動けば必ず得をするわけではありません。
年内に動くべきかどうかは、持っている財産や家族の状況によって一人ひとり異なります。
本記事で紹介した項目も、すべての方に当てはまるわけではないため、まずは自分に関係するものがあるかを確認するところから始めてみてください。
大切なのは、期限に追われて慌てて決めるのではなく、相続全体を見渡したうえで納得できる方法を選ぶことです。
また、12月に公表される令和9年度税制改正大綱や、5年ルールの正式な通達によって、内容が変わる可能性もあります。
年末年始は家族が顔を合わせる機会も増えるため、財産の引き継ぎ方について話し合うきっかけにもなります。
判断に迷う場合は早めに専門家に相談し、安心して新しい年を迎えられるよう準備しておきましょう。
