
日本の単身世帯は上昇を続けており、推計によると2050年には4割を超えるともみられています。
背景には未婚率の上昇や少子化、核家族化の進行があります。
2020年の国勢調査では、50歳時点の未婚率は男性で約25.8%、女性で約16.4%と過去最高を記録しました。
配偶者や子どもを持たないまま老後を迎える方は、今後さらに増えていくでしょう。
ですが、こうした「おひとりさま」にとっても、相続は他人事ではありません。
配偶者や子がいる場合とは異なる特有の問題も多く、何の準備もしないまま亡くなると、財産の行き先が意図しない形で決まってしまう可能性もあります。
本記事では、おひとりさまが亡くなった場合に相続人が誰になるのかという基本から、起きやすいトラブル、そして生前にやっておくべき具体的な対策までを解説していきます。
Contents
独身・子なしの方が亡くなったとき、相続人は誰になるのか
法定相続人の順位と割合
民法では、遺産を相続できる人(法定相続人)とその順位が定められています。
配偶者は常に相続人となりますが、独身で配偶者がいない場合は以下の順位で相続人が決まります。
第1順位:子(直系卑属)
独身であっても認知した子や養子がいれば、その子が相続人になります。子が先に亡くなっている場合は孫が代襲相続します。
第2順位:親(直系尊属)
子がいない場合、存命の親が相続人となります。両親ともに亡くなっていて祖父母が存命であれば祖父母が相続します。
第3順位:兄弟姉妹
親も祖父母も亡くなっている場合、兄弟姉妹が相続人です。兄弟姉妹が先に亡くなっていれば、その子(甥・姪)が代襲相続します。ただし、甥・姪の子への再代襲は認められていません。
故人が高齢の場合は、両親はすでに他界しており、兄弟姉妹や甥・姪が相続人になるケースが多いです。
兄弟姉妹が複数いる場合は、原則として均等に分け合います。
法定相続人が「誰もいない」ケース
子がおらず、一人っ子で、親も祖父母もすでに亡くなっている場合は、法定相続人が誰もいない「相続人不存在」の状態になります。
注意が必要なのは、いとこ・叔父・叔母・甥姪の子などは法定相続人にはならないという点です。
たとえ親しい親族がいても、法的には相続権を持ちません。
法定相続人がいない場合、遺産は以下の流れをたどります。
まず家庭裁判所によって相続財産清算人(旧・相続財産管理人)が選任されます。
清算人は官報で公告を行い、相続人の捜索や債権者への支払いを進めます。
それでも相続人が現れなければ、特別縁故者(内縁のパートナーや生前に世話をしていた人など)への財産分与が検討されます。
最終的にそれでも残った財産は国庫に帰属します。
つまり、遺言書がなければ、自分が長年かけて築いた財産の行き先を自分で決めることができないまま、すべてが国のものになる可能性もあるということです。
独身・子なしの相続で起きやすいトラブル
戸籍の収集が膨大になる

相続手続きでは、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本が必要です。
独身で子がいない方の場合、相続人が兄弟姉妹や甥・姪となるケースが多いため、被相続人の戸籍だけでなく、親の出生から死亡までの戸籍も取得しなければなりません。
転籍や婚姻で本籍地が変わっていれば、複数の自治体にまたがって請求する必要があり、収集には相当な手間と時間がかかります。
疎遠な相続人との遺産分割協議
兄弟姉妹のうち先に亡くなった方がいれば、その子(甥・姪)が代襲相続人となります。
しかし、甥・姪は被相続人と面識がほとんどないことも珍しくありません。
遺産分割協議には相続人全員の合意が必要なため、連絡先すら分からない相続人がいると手続きが長期間停滞するリスクがあります。
財産の所在が分からない
独身で一人暮らしの場合、日常的に自分の財産状況を共有する相手がいないことが多いものです。
どの銀行にいくら預金があるのか、不動産はどこにあるのか、生命保険は加入しているのか。
こうした情報を本人以外が把握していなければ、相続人は遺産を探すところから始めなければなりません。
近年はネット銀行やネット証券、暗号資産、各種サブスクリプションサービスなどの「デジタル資産」を保有するケースも増えており、IDやパスワードが分からなければ存在自体が見落とされてしまう可能性もあります。
対策しないとどうなる? 本人にとってのリスク

相続対策というと「残された人のためにやるもの」というイメージが強いかもしれません。
しかし、独身で身近に頼れる家族がいない方の場合、対策をするかどうかは本人自身の人生の質にも直結します。
ここでは本人の視点から、対策しない場合のリスクと、対策しておくメリットを整理します。
財産の行き先を自分で決められない
遺言書がなければ、財産は法定相続のルールに従って配分されます。
疎遠な親族に渡る場合もあれば、相続人がいなければ国庫に帰属します。
「お世話になったあの人に」「社会に役立ててほしい」といった希望があっても、何も準備していなければ実現する手段がありません。
認知症になったら「手遅れ」になる
遺言書の作成や各種契約の締結には、本人の判断能力が必要です。
認知症などで判断力が低下してからでは、もはや有効な遺言書を作ることも、任意後見契約を結ぶこともできません。
「まだ先でいい」と思っているうちに、対策の機会そのものが失われてしまうリスクがあります。
葬儀・納骨の希望が誰にも伝わらない
自分の葬儀の形式や納骨先について希望があっても、身近にそれを伝える相手がいなければ、誰にも届きません。
何も準備がなければ、行政による簡素な対応になったり、自分の望まない形で送られたりする可能性があります。
生前から対策しておくメリット
自分の財産を「届けたい人・団体」に届けられる
遺言書を作成すれば、友人・知人・お世話になった方への遺贈はもちろん、NPO法人や自治体への寄付(遺贈寄付)も可能です。
自分が大切にしてきたお金や財産を、自分の意思で社会に役立てることができます。
老後における「もしも」を対策している安心感
任意後見契約や死後事務委任契約を結んでおけば、判断力が衰えたときや亡くなったあとの段取りがあらかじめ決まっている状態になります。
「いざというとき誰かが動いてくれる」という安心感は、今の日常を穏やかに過ごすための土台になります。
入院・施設入所がスムーズになる
任意後見契約や身元保証サービスを手配しておくことで、入院や施設入所時の身元保証の問題を事前にクリアできます。いざというとき慌てずに済む体制が整います。
生前にやっておくべき具体的な対策
財産の棚卸しとエンディングノートの作成
最初のステップは、自分の財産をすべてリストアップすることです。
預貯金(銀行名・支店名・口座番号)、不動産(所在地・種別)、有価証券、生命保険、そして忘れがちなデジタル資産(ネット銀行、ネット証券、暗号資産、有料サブスクリプションなど)まで漏れなく整理しましょう。
この情報をまとめるのに便利なのがエンディングノートです。
市販のものや自治体が配布しているものなど様々なタイプがあります。
ただし、エンディングノートには法的な効力が無い点には注意して下さい。
あくまでも情報整理と意思伝達のためのツールであり、財産の配分を法的に確定させるには遺言書が必要です。
遺言書の作成(公正証書遺言を推奨)

配偶者や子がいない方にとって、遺言書は最も重要な対策の一つです。
遺言書があれば、法定相続人以外の人や団体にも財産を渡すことができ、自分の意思を法的に有効な形で残せます。
遺言書には主に自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類がありますが、独身の方には公正証書遺言をおすすめします。
自筆証書遺言は手軽に作成できる反面、形式不備で無効になるリスクがあるうえ、一人暮らしの場合は死後に遺言書自体が発見されない可能性があるからです。
公正証書遺言は、公証人の立会いのもとで作成し、原本が公証役場に保管されるため、紛失や改ざんの心配がありません。
費用は対象財産の価額にもよりますが、数万円程度から作成可能です。
なお、2020年にスタートした自筆証書遺言の法務局保管制度を利用すれば、自筆証書遺言でも形式面のチェックや死亡時の通知を受けられますが、確実性の面では公正証書遺言に軍配が上がります。
遺言書を作成する際は、遺言の内容を実現してくれる遺言執行者の指定を忘れないようにしましょう。
配偶者や子がいない場合、相続手続きを自ら進めてくれる家族がいないため、弁護士や司法書士などの専門家を遺言執行者に指定しておくのが安心です。
遺贈寄付という選択肢
法定相続人がいない、あるいは特定の団体に財産を役立ててほしいと考える方にとって、遺贈寄付は有力な選択肢です。
遺贈寄付とは、遺言書によって自分の財産の一部または全部をNPO法人や公益団体、自治体、大学などに寄付する仕組みです。
遺贈寄付の大きなメリットは、自分の財産の使い道を具体的に決められる点にあります。
相続人がいなければ最終的に国庫に帰属する財産も、遺贈寄付を活用すれば、自分が応援したい分野や関心のある活動に直接届けることができます。
また、認定NPO法人等への遺贈は相続税の課税対象外となるため、税負担の軽減効果もあります。
なお、遺贈には「包括遺贈」(財産の全部または一定割合を遺贈する方法)と「特定遺贈」(特定の財産を指定して遺贈する方法)があります。
相続人がいない場合は包括遺贈が手続き上便利なこともありますが、包括遺贈は負債も引き継ぐ点に注意が必要です。
寄付先の団体や専門家と事前に相談しておくとスムーズです。
死後事務委任契約の締結
遺言書は財産の配分を決める文書ですが、亡くなったあとに発生する実務的な手続き――たとえば死亡届の提出、葬儀・納骨の手配、入院費や施設利用料の精算、公共料金の解約、賃貸住宅の退去手続き――はカバーできません。
これらを第三者に委任するのが死後事務委任契約です。
配偶者や子がいない方は、通常であれば家族が担うこれらの事務を代行してくれる人がいないため、死後事務委任契約の必要性が特に高いと言えます。
契約の相手は、弁護士・司法書士・行政書士などの士業や、NPO法人、民間企業などが選択肢になります。
なお、死後事務委任契約を結ぶ際には、契約内容を具体的に決めておくことが大切です。
葬儀の規模や形式、納骨先、連絡してほしい人のリストなど、自分の希望を細かく伝えておくことで、トラブルを防ぐことができます。
任意後見契約で認知症リスクに備える
独身で身寄りの少ない方の場合、認知症や病気で判断力が低下したとき、財産管理や身のまわりのことを頼める家族がいない可能性があります。
これに備えるのが任意後見契約です。
任意後見契約は、将来判断能力が低下した場合に、財産管理や医療・介護に関する手続きを代行してくれる人(任意後見人)をあらかじめ決めておく契約です。
信頼できる友人・知人や、司法書士・弁護士などの専門家に依頼するのが一般的です。
契約は公正証書で作成する必要があり、実際に判断力が低下した時点で、家庭裁判所への申立てにより任意後見がスタートします。
ポイントは、任意後見契約は「生前のこと」、死後事務委任契約は「死後のこと」をそれぞれカバーする契約だという点です。
独身で頼れる家族が少ない方は、この2つをセットで締結しておくと、生前から死後まで切れ目なくサポートを受けられる体制が整います。
生命保険の活用

特定の人に確実に財産を届けたい場合、生命保険を活用する方法もあります。
死亡保険金は受取人固有の財産とされるため、遺産分割の対象にはなりません。
受取人として指定した人に、保険金が直接支払われます。
たとえば、生前お世話になった友人や知人、あるいは内縁のパートナーなど、法定相続人ではない相手に財産を残したい場合に有効です。
遺言書と組み合わせることで、より確実な財産承継が可能になります。
ただし、受取人の指定を定期的に見直すことを忘れないようにしましょう。
対策を進めるうえでのポイントや注意点
兄弟姉妹には遺留分がない
独身で子のいない方の相続人は、多くの場合、兄弟姉妹または甥・姪です。
ここで知っておきたいのは、兄弟姉妹(およびその代襲相続人である甥・姪)には遺留分がないという点です。
遺留分とは、法定相続人に最低限保障されている遺産の取り分のことですが、兄弟姉妹にはこの権利がありません。
つまり、遺言書で「全額を友人に渡す」「団体に寄付する」と書けば、兄弟姉妹がそれを覆す法的手段はないのです。
兄弟姉妹の側から見れば、事前に何の説明もなくそのような遺言が出てくると、感情的な争いに発展しかねません。
法的には問題がなくても、遺贈を考えている場合は、生前に意向を伝えておくことで死後のトラブルリスクを下げられます。
なお、親が存命の場合、親には遺留分がありますので、配分のバランスに注意が必要です。
不動産の生前整理を意識する
使っていない不動産がある場合は、生前に売却して現金化しておくことを検討しましょう。
相続人がいないまま不動産が残ると、処分の手続きが極めて煩雑になります。
相続財産清算人の選任や官報公告などの手続きには時間も費用もかかり、その間に建物の老朽化や管理不全が進行するおそれがあります。
遺贈寄付を考えている場合も、不動産のまま寄付を受け付けない団体が多いため、換価(売却して現金化)しておくのが望ましいでしょう。
居住用不動産の売却が難しい場合でも、少なくとも情報をエンディングノートに記載し、遺言執行者が対応しやすいようにしておくことが大切です。
信頼できる専門家を早めに見つける
独身・子なしの方の相続対策は、遺言書の作成、死後事務委任契約、任意後見契約など、複数の手続きが関連し合います。
これらを個別にバラバラの専門家へ依頼すると、契約同士の整合性がとれなくなるリスクがあります。
そのため、相続対策に詳しい専門家に一括して相談し、全体の設計をしてもらうのが理想です。
最近は、独身の方やご夫婦のみの世帯向けに終活支援をワンストップで提供する事務所や法人も増えています。
元気なうちに信頼できる専門家を見つけておくことが、すべての対策の出発点になります。
まとめ

独身・子なしの方にとっての相続対策は、「残された人のため」だけでなく「自分自身のため」でもあります。
財産の行き先を自分の意思で決めること。葬儀や納骨の希望を確実に伝えること。認知症になった場合の備えをしておくこと。
これらはすべて、自分の人生の最後まで自分でコントロールするための準備です。
終活は後ろ向きな作業ではなく、残りの人生をより前向きに過ごすためのステップだと言えるでしょう。
最も大切なのは、「元気なうちに動き始める」ことです。
判断力が低下してからでは、遺言書も契約も結ぶことができません。
まずは難しいことを考えずに、エンディングノートを手に取って、自分の財産と希望を書き出すことから始めてみてはいかがでしょうか。
その一歩が、残りの人生をより安心して、より前向きに過ごすための土台になるはずです。
具体的な対策を進める段階では、相続に詳しい専門家への相談をおすすめします。
一人で抱え込まず、信頼できるパートナーを見つけることが、何よりも大切な第一歩です。
まずは、ご相談からでもお気軽にお問い合わせください!
