ご家族が亡くなってしまう直前や直後では、本人の預金をどのように扱えば良いのでしょうか?
今後の生活費や葬儀費用、介護施設・病院への支払いなどに備えて、「口座が凍結されてしまう前に現金を引き出しておきたい」と考える方も多いと思います。
本人に代わって預金を引き出すこと自体は可能ですが、予想外のトラブルに発展しないよう、注意しなくてはならないポイントもあります。
特に、預金の名義人の意思とは関係なく多額の預金を下ろしたり、明確な使用目的なく預金を下ろしたりする事は大きなリスクがあります。
今回の記事では、相続前後に預金を引き出す必要がある場合の注意点や、相続税との関係などについて解説していきます。
預金の引き出しが親族間の争いの元となってしまうこともありますので、正しい対応をあらかじめ学んでおきましょう。
Contents
生前に本人に代わって預金を引き出すことは可能?
ご家族が亡くなってしまう直前に本人に代わって預金を引き出すことは、罪に問われてしまうのでしょうか?
生活費や葬儀・病院などの支払いのために、現金を手元に置いておきたい場合もあると思います。
結論として、口座名義人の意思が確認できれば、問題になることはほとんどありません。
相続直前ではなくても、家族に預金の引き出しを依頼すること自体は珍しいことではないと思います。
ただし、客観的に本人の意思が確認できない場合は注意が必要です。
たとえ本人に頼まれていたとしても、その事実を証明できないような状況であれば、勝手に引き出したと疑われてしまうリスクもあるでしょう。
また、相続が発生する直前の引き出しは相続税の対象となります。
知らずに引き出しを行い、申告漏れとなってしまわないよう注意してください。
生前に本人に代わって預金を引き出す場合の注意点
ご家族が亡くなる直前の預金引き出しは、なるべく慎重に行いましょう。
相続税の申告にも影響がありますので、明確な使用用途がないのに預金を引き出すことは避けた方が良いでしょう。
①他の相続人とのトラブルに注意
ご家族に代わって預金引き出す場合は、本人の意思を確認できるメモや書類を残しておきましょう。
また、併せて事前にその旨を他の相続人に伝えておくことをおすすめします。
病院や介護施設への支払い、葬儀費用などの正しい用途で預金を引き出していたとしても、使い込みを疑われてしまうリスクがあります。
その場合、他の相続人との関係が悪化してしまうかもしれません。
また、「財産を隠して遺産の取り分を多くしたい」などの悪質な意図で、預金を引き出すことは絶対にNGです。
通帳や履歴などですぐにバレてしまいますし、得をすることはありません。
②相続直前の預金引き出しは相続税対策にならない
相続の直前に預金を引き出しておくことは、相続税対策にはなりません。
それどころか、ペナルティが課せられてしまうケースもあります。
引き出した預金を手元現金として相続税申告に含めていれば問題ありませんが、引き出した現金を故意に申告しなかった場合は脱税です。
仮に故意じゃなかったとしても、税務調査で発覚した場合は「過少申告加算税」として、ペナルティが課されてしまいます。
③相続税申告の手間が増えないよう注意する
前述の通り、相続前に引き出した預金も相続財産として集計して申告しなくてはなりません。
その場合には、下記の通り計算した金額を相続財産として計上することになります。
引き出した預金 - 死亡時点までに費消した金額※
※口座名義人が亡くなるまでに使った生活費・医療費・介護費・税金・保険料等の費用
多岐にわたって預金を使用していた場合は、この集計に大変な労力がかかります。
領収書などを都度整理しながら、帳簿等にまとめておくと良いでしょう。
また、亡くなった後の葬式費用などは現金からの差引ではなく、「債務控除」として相続財産からマイナスする形になる点には注意が必要です。
死亡直後に故人の預金を引き出しても大丈夫?
ご家族が亡くなってしまった後は、預金は「相続財産」となります。
預金を引き出すことは可能ですが、遺産分割協議を行う前に預金を引き出す場合は、注意が必要になります。
特に、他の相続人が受け取るべきであった分の預金まで下ろしてしまうことは避けるようにしましょう。
不当利得返還請求や損害賠償請求などをされてしまう可能性があります。
死亡後に故人の預金を引き出す場合の注意点
①ご家族が亡くなった時点での預金額が相続財産として計上される
相続税申告では、亡くなった日時点の残高を相続財産として計上します。
そのため、亡くなった後に引き出した預金も相続税がかかる対象である点には注意しましょう。
ただし、葬式費用などの被相続人にかかる費用や、被相続人の債務を支払うための引き出しは、相続財産からマイナスすることができます。
相続税の節税にもつながるポイントなので、忘れず計算するようにしましょう。
②相続放棄できなくなる可能性がある
相続財産に大きな負債があり、マイナスになってしまう場合などは、相続放棄を検討することになります。
相続放棄をする場合には、相続発生後3カ月以内に手続きする必要があります。
しかし、相続財産の一部でも使用していた場合には、相続を単純承認したとして、期間内でも相続放棄ができなくなってしまいます。
故人の葬儀費用などに使った場合は単純承認とはなりませんが、引き出した預金を何に使ったのかを明確にできる領収書などは必ず保存しておくようにしましょう。
③相続分を超えて出金しないようにする
預金を引き出した場合でも、自分の相続範囲内であれば大きなトラブル発展することはあまりありません。
引き出した分の金額を、自分の取り分からの先払いとして精算できるためです。
ただし、他の相続人の分まで出金した場合は、「どうして他人の分まで引き出したのか」「ちゃんと返金してくれるのか」などと不信感につながってしまいます。
どうしても範囲を超えてしまうような場合は、事前にしっかりと説明し、同意を書面で得ておくようにしましょう。
相続前後で預金を扱う際のポイント
①預金の引き出しを共有する
相続前後の預金引き出しは、相続争いのきっかけとなりやすいです。
使い込みはもちろんですが、仮に葬儀費用などの正しい用途であったとしても、時期や金額が不透明だったために問題になってしまうケースもあります。
そのため、預金引き出しは相続人全員に共有し、同意をとってから行うのが望ましいと言えます。
できるだけ、明細もしっかり記録しておくと良いでしょう。
②専門家に相談する
相続前後に預金を引き出すことには、さまざまなリスクがあります。
ですが、生活費や医療費などの支払いのために、現金が必要になるケースも少なくないでしょう。
「現金は用意しておきたいけど、どうしたらいいか不安」という場合は、早めに専門家へ相談しておくこともおすすめです。
安全かつスムーズに預金を引き出す方法を提案してくれるだけではなく、相続対策や相続手続きなどもまとめて相談することが可能です。
③遺産分割協議を経て預金口座を相続する
相続人全員で相続財産の分け方を話し合って決める遺産分割協議を経て、預金を相続する人が決まれば、預金口座を相続(名義変更)して現金を引き出すことが可能です。
決めた内容をまとめた遺産分割協議書に内容をしっかり記載しておくことで、後からトラブルに発展することを避けることができます。
④仮払い制度を活用する
前述の遺産分割協議が行われる前でも、「相続された預貯金債権の仮払い制度」を活用することで、預金の一部を引き出すことができます。
ひとつの金融機関ごとに最大150万円までの引き出しが可能で、複数の金融機関に口座がある場合には、その合計額が上限となります。
ただし、支店や口座が違うだけでは、同じ金融機関としてみなされる点には注意が必要です。
必要書類はやや煩雑ですが、一人の相続人が単独で手続きすることも可能なため、他の相続人の協力を得られない場合に有効な手段です。
⑤同居家族などの出来るだけ近い家族が行う
通常、本人の許可や確認なく勝手に預金を引き出すことは、窃盗罪や横領罪などの罪となります。
ですが、それが同居している家族や親族によるものであった場合には、「親族相盗例」という刑法の特例が適用されます。
「法は家庭に入らず」という考え方から、家族の間での窃盗や横領は基本的には処罰されないことになっているのです。
ただし、親族以外の第三者や名義人と同居していない親族が引き出す、といったケースは、特例の対象外になる可能性もあります。
トラブルを回避するため、預金の引き出しはなるべく名義人に近い家族が行う方が良いでしょう。
まとめ
相続前後の預金引き出しは、相続税申告と遺産分割の両方の観点から問題になりやすい要因です。
焦って必要以上に多額の預金を引き出してしまうことで、かえって面倒な事態になってしまうこともあります。
引き出しを行う場合は、「引き出しを事前にしっかり共有する」「引き出す用途を明確にする」ことを徹底するようにしましょう。
特に、“事前に”というのが重要なポイントです。
後出しで目録を作成したとしても、すでに不信感を持たれていた場合では納得してもらえないかもしれません。
トラブルを避けるためには、専門家にアドバイスを受けたり目録を作成してもらったりするのも有効です。
わかば税務会計事務所では、豊富な実績から適切なサポートを行なっています。
相続手続きや節税対策に不安がある方は、ぜひお気軽にご相談ください!