相続税は税務署に申告すればそれで終わり、というわけではありません。
法人税や所得税と同じように、相続税でも「税務調査」が行われます。
しかも、申請数に対する税務調査の実施率は、法人税や所得税よりも相続税の方が高くなっているのです。
また、国税庁が公表したデータによると、令和3年事務度の税務調査では87%以上で追徴課税が発生し、その平均追徴税額は886万円となっています。
(参考:令和3事務年度における相続税の調査等の状況)
そのため、相続税の税務調査を不安に感じている方も多いのではないでしょうか?
ですが、申告の仕方や事前の準備次第では、税務調査がなるべく入らないようにしたり、問題なく税務調査を終わらせることも可能です。
今回の記事では、相続税の税務調査の概要やその対策について解説していきます。
Contents
相続税の税務調査とは?
相続税は、納税者本人が自分の責任で納税額を計算し、申告する「申告納税方式」となっています。
この申告内容に誤りがないかを確認する調査手続きが税務調査です。
国税局や税務署が証拠書類の提出を求めたり、自宅に訪問したりして、「計算が間違っていないか」「意図的に少なく申告していないか」などを確認します。
税務調査の内容
税務調査は、相続税の申告期限から1~2年後の夏・秋頃に行われるケースが多いです。
「税務調査」と聞くと、突然捜査員が自宅に押しかけるようなイメージを思い浮かべる方もいるかもしれません。
ですが、実際は税務署から事前に連絡があり、都合が悪ければ日程を調整することも可能です。
任意調査
相続税の税務調査は、基本的には任意調査が行われます。
ただし、”任意”調査とはなっていますが、基本的に断ることはできません。
文書や電話による「簡易な接触」と、調査官が直接自宅を訪問する「実地調査」があります。
実地調査の流れ
実地調査では、税務職員からのヒアリングや必要に応じた書類や通帳の内容確認が行われます。
調査が行われる場所は、原則故人の自宅ですが、既に売却していた場合などは相続人の自宅となります。
基本的には、以下のような流れで行われます。
①税務署から調査の連絡を受ける
相続人もしくは担当税理士に税務署から事前に連絡があり、調査の日時と場所を決めます。
②税務調査を行う
朝10時からスタートし、昼休憩を挟んで午後3時〜5時くらいで終わる流れが一般的です。
1日で終わることがほとんどですが、終わらない場合は後日改めて調査が行われます。
午前中は主に故人に関するヒアリング、午後は書類や通帳、貴重品の保管場所などの確認が行われます。
ヒアリングで行われるよくある質問や、確認される財産・資料の例は、以下のとおりです。
質問の例 |
・被相続人の職業やどのように財産を築いたのか ・被相続人の出身地、職業歴、結婚時期、家族構成、生活費、海外の居住歴 ・被相続人の趣味 ・被相続人の晩年の健康状態や入院状況 ・遺言書の有無 ・被相続人の交友関係 ・配偶者の出身地、職業歴、生活費 ・配偶者の財産状況 ・相続人の職業、家族構成 ・相続人の財産状況 ・生前贈与の有無や金額、いつしたのか ・被相続人の介護や入院・治療にかかった費用 ・被相続人が亡くなる前に、誰が被相続人の財産管理を行っていたか(いつごろから) ・相続開始前に、被相続人名義の金融機関からおろした現金の使い道 |
財産の種類 | 資料 |
預貯金・保険等 | 被相続人、相続人、同居の親族の預金通帳、証書、保険証券、印鑑 |
株式 | 株券の現物、各種通知、保護預かり明細書 |
会社役員 | 株主名簿、株主総会・取締役会等の議事録、元帳、源泉徴収簿等 |
土地 | 権利書、利用状況の確認 |
取引先の把握 | 手帳、日記、香典帳 |
③税務調査の結果が届く
調査からおおよそ2週間~1ヶ月ほどで、調査結果が報告されます。
明らかな誤りがあった場合は、修正申告書を作成して提出することになります。
提出後、税務署から延滞税や過少申告加算税の連絡がありますので、延滞税等を支払って税務調査は終了になります。
強制調査
任意調査を拒否した人や、明らかに悪質な脱税が疑われる人などに対して行われる抜き打ち調査です。
調査員は、裁判所の令状を持っているため強制調査は拒否することができず、納税に関する資料も押収されます。
とはいえ、強制調査が入るのは隠ぺい工作が悪質だったり、高額な脱税が想定される場合です。
任意調査で解決するケースがほとんどなので、不安に感じる必要はないでしょう。
相続税における追徴課税
税務調査によって修正申告が必要となった場合は、本来収めるべきだった未納分の税金+ペナルティの税がかかります。
ペナルティとなる税には、以下のようなものがあります。
過少申告加算税
税務調査後に修正申告をする場合、一律でかかるペナルティです。
税額は、新たに「納める相続税×10%(当初申告していた相続税額と50万円とのいずれか多い金額を超えている部分は15%)」です。
少しややこしいので、以下の具体例を参考にしてみて下さい。
パターン①(当初申告していた相続税<50万円の場合)
当初申告の相続税:40万円
税務調査後の追加の相続税:70万円
50万円✕10%+20万円(50万円を超えた分)✕15%=過少申告加算税:8万円
パターン②(当初申告していた相続税>50万円の場合)
当初申告の相続税:100万円
税務調査後の追加の相続税:150万円
100万円✕10%+50万円(当初申告していた相続税を超えた分)✕15%=過少申告加算税:17.5万円
無申告加算税
相続税を申告しておらず、税務調査に入られた後に期限後申告をした場合にかかるペナルティです。
税額は、「納める相続税×15%(50万円を超えている部分については20%)」です。
重加算税
意図的に申告額を少なくしたり、相続財産を隠したりしたことが発覚した場合にかかるペナルティです。
税額は、修正申告の場合は「納める相続税×35%」、期限後申告等の場合は「納める相続税×40%」です。
悪質な脱税に対してかけられるペナルティのため、過少申告加算税や無申告加算税よりも重い税額となっています。
延滞税
延滞税は、利息に相当する税金です。
税率は年度によって異なり、令和6年度は年2.4%となっています。
(最新の情報は、延滞税の割合(国税庁HP)をご覧ください。)
期限後申告又は修正申告を提出した日から2ヶ月経過すると税率が高くなる(令和6年度:年8.7%)ので、早めに対応するようにしましょう。
税務調査の対象になりやすいケース
税務署では、市役所や法務局、金融機関などから得た情報を活用しながら、相続税の申告書を確認します。
そのため、申告内容によっては税務調査の対象となりやすいケースがあります。
例としては、以下のようなケースです。
遺産総額や相続税納税額が多い
遺産総額や相続税の納税額が多い案件は、税務調査が行われる可能性が高まります。
納税額が多くなると、その分計算ミスや相続財産への算入漏れが発生しやすくなるためです。
また、相続税には累進課税が採用されており、相続財産が大きくなるほど追徴税額も大きくなるため、積極的に税務調査が行われることとなります。
実際に、国税庁から公表された相続税の税務調査等のデータによると(令和3年12月公表分)、5,000万未満規模案件の調査割合が0.4%であったのに対し、5億円以上規模案件は37.9%とかなり高い割合で調査に入られていることがわかります。
税理士に依頼せず、相続税の申告書を自分で作成
相続税申告を税理士に頼まずに自身で申告すると、税務調査に入られる可能性が高くなると言われています。
相続税の申告書は非常に煩雑で、専門家である税理士が関与していない申告書は、不備がある可能性が高まるためです。
そのため、税務調査の確率を減らしたい場合は、相続税の申告書を作成する段階から相続に強い税理士に相談しておくこともお勧めです。
資産に対して申告金額が少ない
税務署では、金融機関口座の調査や提出された確定申告書などの書類から、故人の所得や資産を把握しています。
そのため、把握していた遺産規模に対して申告額が小かった場合は、「申告漏れがある」と判断されやすくなります。
また、税務署は生前の不動産や株式の売却についても把握しています。
生前に不動産や株式を売却したにも関わらず、その売却金額に対応する預金が反映されていない場合にも税務調査が入る可能性が高まります。
相続税がかかるのに相続税申告をしていない
基礎控除や配偶者控除などによって相続税がかからず、申告も不要となる場合があります。
しかし、控除の制度が正しく計算できておらず、実は相続税がかかるはずだったというケースは少なくありません。
そのため、最近では相続税の無申告事案の調査も強化されています。
自分は無申告で良いと思っていても、「相続税の計算に誤りがないか」「相続財産に算入漏れがないか」などをしっかりと確認するようにしましょう。
その他のケース
そのにも、以下のようなケースでは税務調査が入る可能性が高まります。
・生前の入出金が多い
・家族名義の財産が多い
・海外の財産が多い
・亡くなる前に多額に借り入れをして不動産を購入している
・葬儀後に多額のお金が引き出されている
税務調査に向けた対策
先ほどは、税務調査に入られやすいケースを解説しました。
逆に、対策を行うことで税務調査に入られにくくすることも可能です。
生前から行える対策もありますので、しっかりと準備しておくようにしましょう。
財産・債務を正確にまとめておく
現預金や土地などの相続財産を正しく把握しておくことで、申告内容と税務署が把握する相続財産にズレが生じにくくなり、税務調査の対象となるリスクを下げられます。
また、いざ税務調査が入った場合でも、財産・債務をまとめておくことでスムーズな受け答えができます。
結果として、税務調査を何事もなく終えられる可能性も高まるでしょう。
財産のまとめ方は、以下を参考にしてみてください。
財産の種類 | 関連書類 | 確認先 |
不動産 | 全部事項証明書 固定資産税名寄帳 | 法務局 市区町村役場 |
有価証券 | 取引残高報告書 配当金支払通知書 | 証券会社 証券保管振替機構 |
預貯金 | 通帳 取引明細 | 金融機関 |
生命保険 | 生命保険証書 | 保険会社 |
金地金 | 購入時の明細 | 貴金属販売業者 |
ゴルフ会員権 | 預託金証書 | ゴルフ場 販売業者 |
債務 | 金銭消費貸借契約書 返済予定表 | 金融機関 貸付人 |
申告漏れがなさそうな申請書を作成する
相続税申告のためにきっちり財産調査をしたことを示す根拠書類を見やすい形で申告書に添付するなど、第三者から見ても財産に漏れがないと思える申告書を作成します。
税金の専門家である税理士に申告書の作成を依頼することも有効です。
入出金をメモしておく
不明入出金が多いと財産漏れが疑われてしまいます。
ですが、亡くなった人が預貯金を何のために引き出したのかを相続人が把握できていないケースは少なくありません。
預貯金を「何に使ったのか」「どこの口座へ資金移動したのか」などについて、生前にメモしておくようにしましょう。
特に、50万円を超えるような大きな出金については、過去10年間程度は記録しておくことをおすすめします。
名義保険・名義預金の把握
故人以外が契約者となっていても保険料負担は故人が行なっていた保険契約や、故人以外の名義でも故人が資金を出し管理していた預金を、「名義保険」「名義預金」と言います。
この名義保険・名義預金は、契約上は故人の名前がないため申告漏れしやすく、税務調査でも指摘されやすい項目です。
特に、名義預金に関しては、基礎控除を利用して生前贈与する方法もありますので、早めに把握しておくようにしましょう。
タンス預金を解消しておく
残高を客観的に証明しにくいタンス預金が多いと、税務調査に入られやすくなってしまいます。
タンス預金は生前のうちに、自身名義の預貯金口座に入金しておくようにしましょう。
口頭での契約や取引を書面にしておく
書面による契約書がないため、税務調査で契約の真偽を立証できないケースがあります。
子供や孫に財産を贈与した場合の「贈与契約書」や、金銭の貸し借りをしていた場合の「金銭消費貸借契約書」など、生前のうちに適正な書式にして残しておくようにしましょう。
まとめ
税務調査対策の中でも特に有効なのは、相続税に強い税理士に相続税申告を依頼することです。
とはいえ、税理士であればどこに依頼しても同じというわけではありません。
税理士の中には、「法人税・所得税が専門で、相続案件を扱った経験は少ない」というも人もいます。
余裕のあるうちに依頼する税理士をゆっくり選んでおくと安心できます。
当社では、豊富な実績を持つ相続に特化した税理士が、適切なサポートを行なっています。
相続税の申告を不安に感じられている方は、ぜひ一度お問合せください!