

相続財産と聞くと、銀行預金や不動産などの資産を思い浮かべる方が多いと思います。
ですが、株式などの金融資産も相続財産のひとつです。
NISAなどによって投資が以前よりも身近になったことで、株式が相続財産に含まれるケースも多くなっています。
東京証券取引所が令和6年に発表した資料によると、個人株主数は10年連続で増加しています。
ただし、証券会社とのやり取りが必要になるなど、株式を相続する手続きは現金に比べてやや複雑です。
また、株式は日々価格が変動しています。
投資の経験がない相続人にとっては、特に複雑に感じるかもしれません。
今回の記事では、相続財産としての株式の評価方法や手続き、NISA口座を保有していた場合にどうなるのかなどについて、解説していきます。
事前におおまかな知識を学んでおくことで、不安を解消しておきましょう。
Contents
株式の相続税評価額

遺産分割や相続税に影響するため、相続財産がどれくらいあるのかを把握することは重要です。
誤った方法で価値を低く計算しすぎてしまうと、後から延滞税や過少申告加算税といったペナルティが課されてしまう可能性もあります。
株式はタイミングによって価値が変動するため、相続が発生したときに価格を確認する必要があります。
株式が上場株式かどうかによっても異なりますが、以下の方法で評価されます。
上場株式の場合
上場株式は、株式市場で取引相場が公開されています。
そのため、相続税を算出する際にもその取引相場を参考にします。
具体的には、以下の4つの中から一番低い取引相場で計算します。
・相続発生日の終値(1日の最後についた価格)
・相続発生月における終値の月平均額
・相続発生月の前月における終値の月平均額
・相続発生月の前々月における終値の月平均額
被相続人が複数の銘柄の上場株式を保有していた場合は、その株式ごとに最も低い金額で評価することが可能です。
上場企業の株価は、新聞やインターネットで簡単に調べることができる他、相続手続きの際に証券会社から受け取る残高証明書で確認することができます。
非上場株式の場合
非上場株式は株式市場での公開が行われていないため、明確な取引相場がありません。
そのため、評価には国税庁が定めた「財産評価基本通達」という方法を使います。
相続人が株式の保有することでどの程度会社の経営に影響を与えるかによって、計算方法が変わります。
会社の経営支配力を持っている同族株主等の場合は「原則的評価方式」、会社の事業への関与度合いが低く影響力を持たない少数株主の場合は、「配当還元方式」で評価されます。
ただし、非上場株式の評価は非常に複雑です。
実際に相続が発生した場合は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
株式を相続する流れ

相続が発生すると、原則10カ月以内に相続税を申告する必要があります。
スムーズに対応できるよう、手続きのおおまかな流れを押さえておきましょう。
今回は、基本的なケースとなる上場株式の相続の流れを解説します。
①証券会社へ連絡する
まずは、相続財産に株式がどのくらいあるかを把握する必要があります。
株券は基本的に証券会社等にて電子で管理されているため、証券会社に相続が発生した旨を連絡し、残高証明書を発行してもらいます。
証券口座を開設していた証券会社は、以下のような方法で確認することができます。
<証券会社の特定方法>
・自宅に保管されている口座開設の控え
・証券会社から届いた取引報告書
・証券保管振替機構で登録済加入者情報の開示請求をする
また、長期保有等で電子化されていない株券を保有している場合もありますので、ご自宅内や貸金庫等も念の為確認することをおすすめします。
②遺産分割協議を行う
遺言書がなかった場合は、株式を含めた相続財産をどのように分割するかを決める「遺産分割協議」を行います。
相続人全員が合意した内容に基づいて、遺産分割協議書を作成します。
株式の分割方法には、以下のものがあります。
現物分割 | 株式を金銭に換えず株式のまま分割する方法です。 |
代償分割 | 株式を1人の相続人が取得し、他の相続人に対して代わりの金銭を支払う方法です。 |
換価分割 | 株式の売却代金を相続人間で分ける方法です。 代表者となる相続人の証券口座に株式を移管・売却した後、手数料を引いた現金を分割します。 |
③証券口座を開設する
株式を相続するためには、相続人名義の証券口座が必要になります。
そのため、証券口座を持っていない場合は新たに口座を開設しなくてはなりません。
相続財産に株式があることがわかっている場合は、事前に口座を準備しておくとスムーズに相続を進めることができます。
④株式の名義変更手続きを行う
遺産分割協議や遺言書の内容にあわせて、証券会社に名義変更を依頼します。
証券会社ごとに必要な提出書類は異なりますが、主には次の書類が必要となります。
・証券会社所定の名義変更依頼書
・戸籍謄本または法定相続情報一覧図
・遺産分割協議書または遺言書
・相続人全員の戸籍謄本
・相続人全員分の印鑑証明書
書類等に不備がなければ約2週間〜1ヶ月ほどで、相続人の証券口座に株式が移されます。
⑤相続税の申告
被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に、相続税の申告・納付を行います。
上記の通り、必要な手続きや書類の準備は多岐に渡りますので、早めに進めることが大切です。
株式の相続における注意点
準確定申告が必要
株の売買や配当などで発生した利益は、所得税の対象となります。
本来であれば被相続人本人が確定申告する必要がありますが、亡くなっているため確定申告を行うことはできません。
その場合は、相続人が被相続人に代わって確定申告を行う必要があります。
その確定申告を準確定申告といいます。
準確定申告の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内と短いので、注意しましょう。
ただし、証券口座が「特定口座(源泉徴収あり)」で開設されていた場合は、分離課税としてすでに税金は徴収済ですので申告は不要になります。
株式を売却した場合は所得税がかかる
相続された株式を売却したことで利益が発生した場合は、売却益に対して相続税とは別に譲渡所得税がかかります。
譲渡所得は給与所得や事業所得とは分けて課税され、税率は一律で20.315%となっています。
譲渡所得は、「売却金額-取得費」で求められますが、相続により取得したときの評価額ではなく、被相続人が取得した金額を引き継ぐ点には注意が必要です。
もしも、被相続人が取得した金額がわからない場合は、「売却代金の5%」を取得費とすることができます。
ただし、この場合「残りの95%=売却益」となるため、所得税が高額になってしまう可能性があります。
なお、売却しても利益が出なかった場合は課税されず、申告の必要もありません。
<取得費加算の特例>
相続開始日の翌日から相続税申告期限の翌日以降3年を経過する日までに、相続した財産を売却した場合に活用できる「取得費加算の特例」という制度があります。
この特例を活用することで、取得費に相続税の一部を計上して所得税を軽減することが可能となります。
NISA口座を保有していた場合の相続

NISAは、売買益や配当金にかかる所得税や住民税が非課税となる制度です。
それではNISA口座を保有していた場合、相続税も非課税となるのでしょうか?
結論としては、NISA口座で非課税となるのは運用益にかかる税金だけなので、相続税は非課税にはなりません。
基本的な手続きの流れや株式の評価額は通常の証券口座と変わりませんが、いくつか違う点もありますので注意しましょう。
NISA口座における相続の注意点①相続人のNISA口座への移管はできない
NISA口座は一個人に属する権利であるため、相続においても他人のNISA口座から自分のNISA口座へ株式を移管することはできません。
相続人がNISA口座を保有していた場合でも、移管先は通常の証券口座となります。
NISA口座における相続の注意点②取得費は引き継がれない
NISA口座の相続における、通常の証券口座との大きな違いは取得費の評価です。
通常の証券口座の場合は、被相続人の取得費をそのまま引き継いで相続します。
ですが、NISA口座内の株式を相続した場合には、死亡日の終値で取得したものと評価されます。
NISA口座は一身専属的なものなので、被相続人が亡くなったタイミングで一度精算する必要があるためです。
そのため、被相続人の取得費と亡くなった日の終値によっては、NISA口座でも税金上有利にならないケースもあります。
<例①NISA口座の方が税金上有利になるケース>
被相続人の取得費:200万円、死亡日の終値:300万円
その後相続人が400万円で売却した場合
【通常の証券口座の場合】
400万円-200万円(被相続人の取得費)=課税対象となる売却益200万円
【NISA口座の場合】
400万円-300万円(死亡日の終値)=課税対象となる売却益100万円
<例②通常の証券口座の方が税金上有利になるケース>
被相続人の取得費:300万円、死亡日の終値:200万円
その後相続人が400万円で売却した場合
【通常の証券口座の場合】
400万円-300万円(被相続人の取得費)=課税対象となる売却益100万円
【NISA口座の場合】
400万円-200万円(死亡日の終値)=課税対象となる売却益200万円
まとめ

株式の相続は、預金や不動産の相続とは、評価の仕方や手続きの仕方が少し異なります。
相続発生後に的確な対応ができるよう、取引している証券会社やおおよその時価などを把握しておくと良いでしょう。
ですが、株式が財産に含まれる場合は相続が複雑になりやすいです。
そのため、専門家の助けを借りて相続を進めることもおすすめします。
ただでさえ相続税の手続きは慣れない作業が多く、日常生活の合間にこなすのは大変です。
専門家のサポートを受けることで、労力を省けるとともに、トラブルなどのリスクを下げることができます。
わかば税務会計事務所では、豊富な実績を持つ相続の専門家が的確にサポートを行います。
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