

一般的に「贈与」といえば、財産を無償で譲り渡す行為を指します。
しかし実際には、財産を渡すだけではなく「介護をお願いしたい」「事業を継いでほしい」といった希望や条件を添えたいと考えるケースも多く存在します。
こうした希望を法的に反映する手段が「負担付贈与」です。
負担付贈与は、受贈者に一定の条件を課すことができ、それが履行されなければ契約を解除できる性質を持つため、相続対策の手段としても利用されることがあります。
ですが、所得税が発生したり通常の贈与よりも税負担が大きくなったりするケースもあるため、注意も必要です。
本記事では、負担付贈与の基本的な仕組みから、通常の贈与との違い、メリット・注意点、具体的な契約の進め方まで、幅広くわかりやすく解説します。
生前贈与や相続の一環として検討される方はもちろん、贈与に条件をつけたいとお考えの方にも参考になる内容となっていますので、ぜひ最後までご覧ください。
Contents
負担付贈与とは?

負担付贈与(ふたんつきぞうよ)とは、財産を受け取る代わりに、受贈者が一定の義務や責任を負うことを条件とした贈与のことをいいます。
「家をあげるから面倒を見てほしい」「借金の返済も引き継いでほしい」といったケースが代表例です。
通常の贈与が「財産を無償であげる行為」であるのに対し、負担付贈与は「財産をあげる代わりに何らかの義務を履行してもらう」という性質を持つ契約です。
贈与者と受贈者の間で明確な合意が必要となるため、通常の贈与よりも契約としての性質が強くなります。
負担付贈与の具体例
以下は、実際に想定される負担付贈与の例です。
●介護を条件にした贈与:親が自宅を子に贈与する代わりに、「今後は介護をしてほしい」と条件を付ける
●ローン付き不動産の贈与:ローンが残る不動産を子に贈与し、その返済を引き継がせる
●家業の承継を条件とする贈与:事業用資産を子に贈与し、「事業を継続すること」を条件とする
●第三者への支援を負担とする贈与:配偶者の生活費支援などを条件に、財産を贈与する。
これらはすべて、「財産をもらう代わりに何らかの行為をする」構造となっています。
負担が贈与者本人に対するものでなくても、当事者間の合意があれば有効です。
負担付贈与と通常の贈与の違い
負担付贈与を検討する場合、通常の贈与の違いを正しく理解することが重要になります。
自身はどちらが有効か迷う場合は、まずは専門家に相談してみることもおすすめです。
項目 | 贈与 | 負担付贈与 |
義務の有無 | 原則なし(無償) | 一定の義務あり |
契約の性質 | 譲与のみ | 義務とセットの契約 |
評価額 | 相続税評価額 | 時価 |
課税対象 | 財産の全額 | 財産の価額 − 負担分 |
主な活用例 | 生前贈与・資金援助 | 介護・事業承継・債務引受など |
負担付贈与にかかる税金の仕組み

負担付贈与は、「財産の価額 − 負担の金額=課税対象」となります。
基礎控除なども適用することができるので、事前におおまかなシミュレーションをしておくこともおすすめです。
なお、贈与税が課税される場合は、負担付贈与がなされた翌年の2月1日~3月15日までの間に、贈与税の申告・納付を行う必要があります。
【例】親から子へ自宅の負担付贈与を行った場合
・自宅(土地・建物)の時価:4,000万円
・引き受けたローン残債:2,000万円
贈与税の課税対象額の計算式:
贈与された財産の価額(4,000万円) - 引き受けた負担額(2,000万円) - 基礎控除額(110万円)
=贈与税の課税対象額(1,890万円)
贈与税額の計算方法
贈与税は、「課税対象額」に応じて累進課税で税率が変わります。
財産を時価で評価する負担付贈与では、課税対象額がより大きくなるケースも少なくありません。
事前に税額を確認し、贈与の方法やタイミングを慎重に検討することが大切です。
場合によっては、「相続時精算課税制度」という特例を使って贈与税を後回しにすることも有効になります。
(相続時精算課税制度はこちらの記事で解説しています:https://zeimu-wakaba.com/33/)
制度の適用には細かい条件や将来の相続を見越した判断が必要となるため、専門家に相談しながら進めるのがおすすめです。
負担付贈与契約書の内容と書き方のポイント

法律上、負担付贈与は口頭でも有効です。
ですが、「何をあげたのか」「何をしてもらうのか」が曖昧だと、後々のトラブルの元になります。
そのため、贈与と負担の内容を明記した負担付贈与契約書を作成しておくことを推奨します。
契約書に記載すべき主な項目
【1】贈与の内容
・贈与者(あげる人)と受贈者(もらう人)の氏名
・贈与する財産の詳細
※不動産の登記簿謄本に基づいた「所在地」「地番」「面積」などを正確に記載しましょう
・贈与を行う日(契約成立日や移転日)
【2】負担の内容
・受贈者が負う義務・負担の具体的内容
・負担の期間や条件
※固定資産税の負担などについても明確にしておくと安心です
契約内容は明確かつ具体的に
介護などの精神的・人的な負担は抽象的になりやすいので、どのような内容をどれくらいの期間行うかをしっかり明記しておきましょう。
また、不動産の贈与では、「どの不動産を贈与するか」がはっきりしないと、贈与そのものが無効になる恐れがあります。
登記簿謄本に基づいた正確な物件情報を契約書に書くことが重要です。
負担付贈与契約の解除について
もし受贈者が負担を果たさない場合、贈与者は「債務不履行」を理由に契約を解除できます。
ただし、相手が一部でも義務を果たしていた場合は、原則として相手の同意がないと契約解除はできません。
こうしたトラブルを防ぐためには、「相手が必ず義務を果たすとは限らない」という前提で、一度にすべてを贈与せず、段階的に渡す方法もおすすめです。
負担付贈与のメリット
1.贈与者の希望や条件を実現できる
贈与に条件をつけることで、贈与者の気持ちや希望が伝わりやすくなり、受贈者もそれに応えようと努力することが期待できます。
贈与を通じて、単に財産を渡すだけでなく、「介護してほしい」「家業を継いでほしい」「他の家族の面倒も見てほしい」といった贈与者の希望や想いを契約として反映できます。
2.贈与税の節税につながる可能性がある
負担付贈与は、課税対象となる金額が「財産の価額 − 負担の金額(=実質的な利益)」になるため、負担が大きいほど課税される贈与税が軽くなる可能性があります。
そのため、条件によっては贈与税の課税額が大幅に抑えられることもあり、効果的な節税手段となります。
ただし、税務上の評価や認定が必要なので、専門家への相談するようにしましょう。
3.受贈者が負担を履行しない場合は贈与契約を解除できる
受贈者が負担を履行しなかった場合は、贈与契約自体を解除できる点もメリットとなります。
ただし、受贈者が負担を履行しない場合でも、すぐに契約解除できるわけではありません。
予め一定の期間を定めた上で催促をし、それでも履行されない場合に限り、贈与契約の解除が可能となります。
予め贈与契約書に詳細を記載しておくことで、トラブルを回避することが可能です。
負担付贈与の注意点
1. 負担内容が不明確だとトラブルになりやすい
曖昧な条件では「言った・言わない」のトラブルになりがちです。
また、もし相手が約束を果たしてくれない場合でも、罰則が科されるわけではなく、贈与した財産の返還を求めるしか方法がないのが実情です。
事前にしっかりと相手と話し合い、条件を明確に設定しましょう。
2.金額の評価が難しい負担は節税になりにくい
課税対象は「財産の価値 − 負担の金額」となりますが、金銭以外の負担(介護など)は評価が難しく、税務署と見解が合わないこともあります。
負担の内容が金額で明確に評価できない場合には、その分を贈与税の計算から差し引くことができず、結果として、贈与された財産の全額が課税対象となる可能性があります。
3.不動産の負担付贈与は税金に要注意
普通の贈与では、不動産の評価は「相続税評価額」をもとに税額が決まります。
ですが、負担付贈与では「時価」で評価されるため、贈与税が高くなる可能性があります。
また、不動産を受け取った側は、不動産取得税や固定資産税などの税金も負担することになります。
4.贈与した側に税金がかかるケースがある
相手に引き受けさせた負担が贈与財産の価値を上回ると、「譲渡所得」が発生し、贈与する側に所得税や住民税がかかります。
たとえば、「親が子に自宅を贈与し、その代わりに子が住宅ローンの残債を支払う」ケースなどが該当します。
ローンの残額が家の評価額を上回っていた場合は、受贈者が負債を肩代わりしてくれることで、その差額分の「利益」を得たとみなされるためです。
まとめ

負担付贈与は、財産の承継に「条件」や「想い」を組み込むことができるという大きな利点があります。
介護や事業承継、第三者への支援など、家族や相続にまつわる多様なニーズに対応できる制度といえるでしょう。
ただし、契約内容が曖昧だった場合や、負担の内容が金銭換算できない場合は、思わぬ税負担やトラブルを招くこともあります。
負担付贈与を適切に活用するためには、契約書の作成、税務上の確認、将来のリスク管理といった多方面の検討が不可欠です。
自己判断で進めず、専門家の助言を得ながら進めることを強くおすすめします。
今後、少子高齢化や資産継承の問題がますます重要になっていく中で、負担付贈与は有力な選択肢のひとつになります。
家族や企業の将来を見据えて、後悔のない贈与を行うためにも、正しい知識を身につけて活用していきましょう。
制度の詳細が気になる方は、ぜひお気軽にご相談ください!