遺産総額が基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人数)以下であれば、相続税はかかりません。
ですが、基礎控除額を超えた財産は相続税の対象となるうえ、相続税は累進課税なので相続財産が大きいほど税額も高くなります。
「自分は関係ない」と思っていても、実は相続税の申告が必要だったり、予想よりも多くの相続税が発生してしまったりするケースも少なくありません。
相続税は生前の対策によっては、大きく税額を軽減できる可能性のある税金です。
残された家族の負担を減らすためにも、相続対策をしっかり行なっておくことは大切です。
今回の記事では相続税対策に有効な方法について、注意点も含めて紹介していきます。
Contents
相続対策①【年間110万円まで非課税】生前贈与を毎年行う
相続対策の中でもメジャーな方法が生前贈与です。
生前に財産を渡しておくことで、相続時の財産総額を減らすことができます。
通常は財産を無償で贈与した場合は、「贈与税」がかかるのですが、1年間で110万円までは非課税で贈与することが可能です。
(110万以上の贈与を行う場合は、超えた分に贈与税がかかります。)
これを「暦年課税」と言いますが、いくつかの注意点があります。
注意点1:相続税は「贈与を受けた人」にかかる
非課税枠は贈与を受けた人1人あたりの金額です。
そのため、両親から110万円ずつ贈与を受けた場合などで、合計220万円のうち非課税となるのは110万円だけです。
逆に、子供3人に110万円ずつ贈与した場合は、330万円分を非課税で贈与することができます。
注意点2:相続財産への足し戻しルールがある
贈与者の死亡日以前7年間に贈与された分は、贈与したときの時価で相続財産に加算するというルールが設けられています。
以前は死亡日以前3年以内まででしたが、令和5年度の税制改正によって7年以内に延長されました。
ただし、延長分の4年間については経過措置として、「贈与額の合計から100万円を引いた額」が加算対象となります。
注意点3:定期贈与・連年贈与とみなされないようにする
初めから大きな額を贈与する前提で小分けに贈与する「定期贈与・連年贈与」とみなされてしまうと、贈与税が発生してしまう可能性があります。
対策としては、毎年贈与する時期をずらす・金額を少しずつ変える・贈与しないまたは110万円を少し超える贈与を行って贈与税を納める年をつくる、などの方法があります。
相続対策②【合計2,500万円まで非課税】相続時精算課税制度で贈与を行う
贈与税に関する制度に「相続時精算課税制度」というものがあります。
この制度を利用することで、累計で贈与額2500万円までを非課税で贈与することができます。
ただし、この制度で贈与した金額は、贈与者が亡くなった際に相続財産に加算されます。
注意点1:暦年課税制度との併用はできない
相続時精算課税制度を一度でも利用した場合は、暦年課税制度に戻すことはできません。
ですが、令和5年の税制改正によって、相続時精算課税制度においては贈与を受けた財産から年間110万円が控除できるようになっており、利便性が向上しています。
注意点2:税務署への届出が必要
相続時精算課税制度を利用する場合は、贈与年の翌年3月15日までに税務署へ届出をしなくてはいけません。
まだ余裕があるからと後回しにして、忘れてしまわないように注意しましょう。
相続対策③【最大1,000万円まで非課税】住宅取得等に必要な資金の贈与を行う
「住宅資金贈与」という、子や孫が居住する住宅の購入やリフォームを援助する場合に一定額まで非課税となる特例があります。
上記の暦年贈与制度や相続時精算課税制度との併用も可能です。
非課税になる金額は、省エネ等住宅で1000万円、それ以外の住宅で500万円までとなります。
令和5年12月31日までが期限でしたが、令和8年12月31日までの延長が決まっています。
注意点1:実の子や孫にのみ適用できる
住宅取得等資金贈与の非課税制度を適用できるのは、贈与する人の直系卑属(子・孫・ひ孫など)だけです。
子の配偶者などに贈与をした場合は、特例を使えませんので注意しましょう。
注意点2:贈与のタイミングが決まっている
制度要件の一つに、「贈与を受けた年の翌年3月15日までに、住宅を新築や取得していること」というものがあります。
特に、契約日と引渡日までの期間が長くなりがちな新築マンションなどの場合は注意が必要です。
早いタイミングで贈与してしまい、特例を適用できなくなってしまわないようにしましょう。
注意点3:税務署への申告が必須
贈与を受けた金額が非課税額内で贈与税が0円だったとしても、必ず期限までに贈与税の申告をしなければいけません。
申告漏れが発覚した場合は、住宅取得等資金贈与が適用されなくなるだけではなく、無申告加算税や延滞税などのペナルティが発生してしまう可能性があります。
注意点4:贈与を受ける人の年間所得金額が2000万円以上だと適用できない
贈与を受ける人の所得金額が2000万円を超えると、住宅取得等資金贈与の非課税が使えなくなります(家屋の床面積が40㎡以上50㎡未満の場合は、1,000万円以下)。
この所得とは、給与所得だけではなく不動産を売った場合などの譲渡所得との合計です。
よくあるのは、「現在の自宅を売却し、贈与を受けた金額と合わせて新しい家を買う」ケースです。
この場合は、売却する年と贈与を受ける年をずらすことができれば、特例を適用することができます。
相続対策④【最大1,500万円まで非課税】結婚、子育て、教育資金の贈与を行う
「結婚・子育て資金」や「教育資金」にも、贈与税の非課税措置が設けられています。
結婚・子育て資金は、18歳以上50歳未満の直系卑属に対して、最大1000万円(結婚300万円)までの非課税枠が設けられています。
教育資金は、30歳未満の直系卑属に対して、最大1500万円(学校以外の教育は500万円)までです。
注意点1:贈与を受ける人の年間所得金額が1000万円以上だと適用できない
住宅取得資金同様に、贈与を受ける人の所得が1000万円を超えている場合は、特例を適用できません。
注意点2:金融機関を経由する必要がある
金融機関で専用の口座を開設し、資金を使った場合はその用途に適した領収書を金融機関に提出する必要があります。
また、結婚・教育といった正しい用途以外でお金を使い込んでしまった場合には、後から贈与税が課されることになってしまうので、注意しましょう。
相続対策⑤【土地の評価額を80%減らせる】小規模宅地等の特例を活用する
小規模宅地等の特例とは、被相続人から相続する土地の評価額を最大8割まで減額する制度です。
相続における評価額が下がるので、相続財産額を基準にする相続税を大幅に減額することができます。
対象面積は330㎡(100坪)までとなっており、それを超える部分は通常の評価額となります。
メリットの大きい制度ですが、その分利用するための要件が厳しく定められています。
対象者や必要要件は以下のとおりです。
土地を取得する人 | 要件 |
被相続人の配偶者 | 特になし |
被相続人と同居していた親族 | ・被相続人と同じ家に住んでいたこと ・相続税の申告期限(被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から数えて10カ月以内)までその家に住み、保有し続けること |
それ以外の親族 | ・被相続人に配偶者がいない ・被相続人と同居している法定相続人がいない ・相続開始前の3年間、自己・自己の配偶者、自己の3親等以内の親族等が所有する国内の家に住んだことがない(借家に住んでいる) ・相続開始時にこの特例を受ける親族が住んでいた家を過去に所有していない |
注意点1:相続時精算課税制度との併用不可
相続時精算課税制度で土地を贈与した場合は、小規模宅地等の特例を適用できません。
そのため、相続時精算課税制度は、小規模宅地等の特例が当てはまらない土地や、その他の財産の贈与に利用するとよいでしょう。
注意点2:同居の実態が必要
住民票だけ一緒にしており、実際は別居しているという場合は、「被相続人と同居していた親族」としてみなされません。
税務署の調査で偽りがばれた場合には、脱税となってしまいます。
逆に、住民票が別の住所だったとしても同居の実態があり、かつそれをしっかり証明することができれば特例を適用することが可能です。
相続対策⑥【法定相続人1人あたり500万円が節税可能】生命保険の非課税枠を活用
故人が生前に加入していた生命保険の受取人を法定相続人にしておくことで、500万円×法定相続人の数までを非課税にすることができます。
非課税枠を適用するためには、「保険料負担者と被保険者=被相続人」「受取人=相続人」で生命保険を契約する必要がある点には注意が必要です。
相続対策⑦【相続税評価額を最大40%減らせる】現金をアパート・マンションに変える
現金や土地をアパートやマンションなどの収益物件にすることで、相続税評価額が下がります。
入居者が借地権を有していることで、土地を自分の自由にできない分が評価額に反映されるためです。
小規模宅地等の特例との併用も可能で、賃貸事業用土地の場合は、200㎡を上限に評価額を50%下げることができます。
注意点1:空き家が多いと逆にマイナスになることも
空き室があるとその分評価額が上がってしまうだけでなく、運営コストで赤字になってしまいます。
相続対策をするつもりが、節税効果以上に赤字が大きくなってしまっては本末転倒です。
運営プランをしっかりと計画した上で、実行するようにしましょう。
まとめ
相続税は早めに対策を実行することによって、大きく節税ができる可能性があります。
ですが、相続対策は慎重にバランスを考えて実行することが大切です。
短期的な思いつきで実行して、思わぬトラブルや争いが発生してしまわないようにしましょう。
また、今回の記事でご紹介したのは各制度の大まかな概要になりますので、気になる制度がある方はお気軽に詳細をお問い合わせください。